散骨ができる場所、できない場所と判断基準
故人のご遺骨を自然に還す葬法「散骨」。
自然といっても、海洋葬、山のどちらにするのか。
また、思い入れのある商業施設やテーマパークはダメなのか?などわからないことが多いのではないでしょうか。
実は、散骨にはできる場所とできない場所が存在します。
日本では、散骨は法律で禁止こそされていませんが、死体等遺棄罪、墓地・埋葬等に関する法律があります。方法によっては、遺骨を遺棄すると懲役刑(3年以下)がくだされる可能性があるため、ある程度モラルを守った方法で散骨を実施することが必要です。
つまり、散骨を行う場合は、節度をもって行う場合のみ可能となります。
この「節度をもって」というのは、遺骨を骨とわからないように粉骨してパウダー状にすることと、撒く場所をわきまえるということです。
そのため、どこに撒いたらよいのか、具体的な内容を知ったうえで散骨の計画を立てることが必要となります。
故人を供養する方法の一つとして、散骨を希望される人が増えてきています。
散骨とは、遺骨を小さく砕いて海や山などにまく葬法です。
とはいえ、散骨はどこでも行えるわけではなく、できる場所とできない場所があります。
この記事では、散骨とはどのようなものか、その歴史や内容などとともに、散骨する場所選びの判断基準などを解説していきます。
散骨って法律的に問題ないの?
自然が好きだった故人の遺志を尊重して、「思い出の海や山に散骨してあげたい」と希望されるご遺族は少なくありません。
遺骨はすべて自然の中に還るので、お墓などを必要としない自然葬の一つです。
遺骨を供養する方法としては、お寺の墓地などに納めて、お盆や命日にお参りするというイメージが強いために、散骨は新しい葬法のように感じられるかもしれませんが、実のところその歴史は古く、平安から奈良時代にはすでに日本でも行われていたという記録があります。
よく知られている例としては、淳和天皇が遺言として京都市大原野の西山に自らのご遺骨の散骨を命じたことや、最古の歌集である「万葉集」の挽歌にも、散骨の情景が詠まれていることなどが挙げられるでしょう。
散骨の風習が一時途絶えた要因としては、江戸時代の寺請制度の導入があります。
もともとキリスト教を排除する目的で、幕府が定めた民衆の管理方法でしたが、お墓への埋葬・供養が一般的になったことに伴って、散骨は影を潜めたというわけです。
現代になって再び散骨が脚光を浴びるようになったのは、ライフスタイルの変化を背景に死生観が多様化していることなどが影響していると考えられています。
とはいえ、遺骨を砕いて山や海にまくという行為は、そもそも法律的に問題はないのでしょうか。
結論から言えば、これは全く問題がない行為です。全くというより、散骨を禁止している法律がないため、問題はないけれども積極的に認められているものでもない、という言い方が適切かもしれません。
散骨に関しては「葬送の目的として節度をもって行えば違法にはあたらない」という法務省の非公式見解も出されていることから、行う際に最も求められるのは「節度」であるとされています。
そのため、どこにどんな方法でまいてもよいわけではなく、散骨の方法や場所の選び方が重要になってくるわけなのです。
散骨が出来る場所は?
散骨が可能な場所を具体的にご紹介します。
散骨場所として考えられる場所としては、「海」「山」「川や湖」「一般の土地」「思い出の場所(公園・テーマパークなど)」が考えられます。
それでは、これらの場所はどこでも散骨することが可能なのでしょうか。
散骨が法律的に禁止されていない行為である限り、どこにでも遺骨をまくことはできそうですが、そこには「節度」が求められますので、誰にも迷惑がかからない一定の条件を順守する必要性が生じます。
場所によってその条件は異なりますので、個々にその判断基準を確認していきましょう
ご自身の私有地
ご自身が私有している山、ご自宅の庭などの土地は、基本的に散骨可能です。実際、地方にお住まいの方の場合は、自宅の庭に散骨する方が多くなっています。自分の庭なら、故人といつも一緒にいることができますし、故人もずっといたい場所であることが想像できますね。ただし、その地にずっと住み続ける予定であること、墓石などを建てないこと、ご近所のお宅と近い場合は承諾を得る、などの条件をクリアする必要があります。
海の場合
海の場合は、散骨できる場所とできない場所があります。
誰にも迷惑を掛けないという節度をもって行える場所が、すなわち散骨できる場所です。
具体的には、岸から遠く離れた沖合などがこれにあたります。
一方で、散骨によって風評被害をこうむる恐れのある場所、すなわち海水浴場や漁場、養殖場、浜辺や防波堤といった観光資源・水産資源の拠点やその周辺などでは散骨を行うことはできません。
厚生労働省が散骨業者向けに定めた「散骨に関するガイドライン」では、海岸から一定の距離以上離れた海域を選び、地域住民や周辺の土地所有者の利益を害することがないよう留意点を示しています。
海は誰の所有物でもないため散骨可能な場所として対象になりますが、制限があります。海の場合、漁業権が存在するからです。漁場に散骨してしまうと、漁業権を持った人から慰謝料(精神的苦痛)や損害賠償(風評被害)を請求される可能性がありますので、漁業を行う近海の漁場は避けなければなりません。岸からかなり離れた沖合を選んで散骨するようにしましょう。また、海上交通の場所、海水浴場の近くも風評被害として訴えられる可能性がありますので、避けることが大切です。
山の場合
山の場合にも、散骨できる場所とできない場所があります。散骨できる場所は、その山が自分の所有する山林である場合です。自分の所有物以外は、他人の所有物や国有の山林となりますが、ここで散骨を行う場合には持ち主の許可が必要になり、その結果次第です。ただし国有林に関しては風評被害防止などの観点でほぼ禁止されていることから散骨は不可能だといえるでしょう。
川や湖の場合
川や湖は、水源であったり生活用水に利用されていたり、また一部では漁場にもなっていたりすることから、風評被害防止の観点にもとづいて散骨はできません。
一般の土地
一般の土地とは、国有地以外の私有地と、それ以外の他人の土地をさします。
この中で散骨できる場所は私有地だけです。
それ以外はそれぞれの所有者の許可を得る必要がありますが、私有地以外はまず不可能であると考えた方がよいでしょう。
ただし、私有地で散骨する場合にも注意すべき点があります。
それは、墓標を立てないということです。
これは「墓地、埋葬等に関する法律」にある「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」の規定によるもので、代々引き継いできたお墓以外は、私有地であっても新たに設置できないという決まりがあるからです。
このほか、所有地への散骨は地価を押し下げるため、今後も売買対象としない場所であることを確認したうえで実施する必要があります。
所有者の許可を得た山・テーマパーク・商業施設など
生前に故人が好きだった場所、思い出の場所などに散骨したいと思うのは遺族の願いかもしれません。
とはいえ、無断で行うことはできませんので、やはり所有者の許可を得なくてはなりません。
その場合も、許可が下りることは非常に難しいと思われることから、散骨はできないと考えた方がよいでしょう。
山、テーマパーク、商業施設などは、国、県、その他団体や個人などの所有地になるため、散骨をするには必ず所有者の許可が必要です。
そのため、個人的に交渉してOKをもらえれば散骨可能ですが、観光地、水源などを避けなければなりません。
実際には難易度が高いといえるでしょう。
業者の管理している墓所や場所
散骨業者は、自社で散骨ができる場所を確保・所有しているケースがあります。このような墓所や場所であれば、他人への影響や法を犯す危険性なく安心して散骨することが可能です。なお、当社「やすらぎの郷」の場合、赤城山に散骨場を所有しておりますので、山への散骨・樹木葬が安心して行えます。
散骨できない場所
基本的に地権者も権利保有者などがいる場所の場合、その権利者の散骨許可が必要ですので、許可がない場所には散骨することはできません。また、条例により散骨を禁止している自治体がありますので、その地域では散骨することはできません。
散骨が禁止されている自治体
- ・北海道七飯町(要綱)
- ・北海道岩見沢市
- ・北海道長沼町
- ・長野県諏訪市
- ・埼玉県秩父市
- ・静岡県御殿場市
- ・その他、増減する可能性あり
散骨許可の無い場所
許可のない公共施設・敷地内、私有地などには散骨することはできせん。
漁場・養殖場・海水浴場・海上交通の経路などの周辺海域
節度をもった散骨を行うには、これらの海域を避けなければなりません。
観光地や観光ルート内
許可を得た場所であっても、観光地のすぐ近くや観光ルート内は避ける必要があります。
散骨出来る場所できない場所まとめ
散骨可能な場所と不可能な場所をわかりやすく表にまとめました。
散骨場所 | 可否 | 備考 |
海 ⇒ 沖合 | 〇 | 漁場、観光領域から離れていれば問題はない。 |
海 ⇒ 漁場・養殖場・防波堤・浜辺 | × | 風評被害がある。 |
海 ⇒ 海水浴場 | × | 風評被害がある。 |
海 ⇒ 海上交通経路 | × | 風評被害がある。 |
湖・沼 | × | 生活用水、漁業などに利用される場合、観光地であることが多い。 |
河川 | × | 漁場であることが多く、水源でもある。 |
山 ⇒ 自分の私有地 | 〇 | 自分の土地なので基本的に問題はないが、水源の近くは避ける必要がある。 |
山 ⇒ 他人の私有地 | △ | 所有者の許可を得る必要がある。 また、観光地を避け、川などの水源がない場所に限られる。 |
山 ⇒ 国有地 | △ | 管理者の許可を得る必要がある。風評被害。 |
自分の土地 ⇒ 庭など | △ | 近所の理解・合意を得る。 |
他人の所有地 | × | 所有者の許可が必要。 また、近隣の同意、観光地でないこと、水源が近くにないことが条件となる。 |
商業施設・テーマパーク | × | 所有者の許可が必要。基本的に風評被害がある。 |
公園・住宅地など | × | 風評被害がある。 |
業者所有の散骨場 | 〇 | 散骨場として問題がないことが確認された土地であるため、全く問題がない。 |
判断基準
散骨場所として適切であるか否かについては、上記でご説明した内容を参考にしていただければと思います。基本的には、私有地であるかどうかがポイントですが、私有地であっても水源などがあるところは散骨不可能です。他人の私有地の場合、許可があれば可能ですが、こちらも人が多くいる場所や観光地、水源の近くは散骨できません。
このように、非常に細かい条件により可否が異なりますので、迷われた場合は、専門業者に確認するようにしましょう。
以上は条件によって散骨ができたり、できなかったりする場所の判断基準をまとめたものですが、これ以外にも、無条件に散骨できる場所、できない場所があります。
まず無条件に散骨できる場所とは、散骨の専門業者が管理している墓所や墓苑となります。
もしくは専門業者が散骨可能として指定したエリアです。
どちらにしてもその業者を通じて依頼する方法になります。
一方、無条件に散骨できない場所としては、自治体が条例で散骨の禁止を定めた場所になります。
北海道の長沼町、埼玉県の秩父市などがそれにあたります。
これ以外にも散骨に規制を設けている自治体はありますが、対象は業者に限られ個人についての規定はないことから、個人で散骨を行いたい場合には事前に自治体へ問い合わせて確認するのがよいでしょう。
なお、山などにある業者が所有する散骨場であれば、問題なく安心して散骨が可能。
どこに散骨するかで迷った場合は、選択のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか。
散骨する際の注意点は?
個人で散骨を行おうとする場合には、散骨できる場所を正しく確保して、節度を持って行えば事前の手続きなどは特になく、行政への届け出なども必要はありません。
ただし、注意しなくてはならない点もあります。
第一に、周囲の人の了解を取り付けることです。
散骨を行おうとする人が、墓を受け継ぎ先祖の祭祀を主宰する「祭祀承継者」であれば問題はないのですが、承継者が定まっていない場合は、親族などの合意を得ながら進めることが必要で、独断では後々人間関係に禍根を残すことにもなりかねません。
そのため、周囲の了解は散骨を進めるための前提条件となるものです。
次に必要なのは、散骨にかかわる二つの法律を理解しておくことです。
一つは刑法190条の「遺骨遺棄罪」で「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」という内容のもの、もう一つは「墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)第四条1項」で「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない」という内容のものです。
遺骨遺棄罪に触れないために必要なのが、遺骨をなるべく細かく粉砕して遺棄物と見なされないようにすることです。
そのため、2ミリ以下のパウダー状になるまで小さくしなくてはなりません。
また、墓地埋葬法で「遺骨は埋蔵できない」と定めていることから、パウダー状にした遺骨を掘って埋めることは違反になります。
あくまで上からまくだけに止め、まいた後で木の葉などを遺骨にかぶせるようなこともしないようにします。
供養の方法として歴史のある散骨も、場所選びには一定の判断基準があるために注意が必要となる
散骨は、平安・奈良時代にその事例が見られる歴史ある供養の方法ですが、死生観の多様化にしたがって現代でも散骨を希望する人が増えてきました。
しかし散骨はどこでも行えるわけではなく、場所選びには一定の判断基準が求められます。
判断基準の重要な要素は、周囲に迷惑をかけないという「節度」であり、散骨を行う際は、関連する法律などへの理解も必要になります。
やすらぎの里では、いつでもご家族にお参りをしていただくことが可能。お電話をいただければ、費用などについて詳細をお伝えいたします。お気軽にご相談ください。